秋山 カズマ

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「秋山、ちょっと良いか?」 そんな秋山の鼻歌を峰岸が呼び止めた。 峰岸は秋山が新人の頃、過酷な営業の世界で生き残る術を教え込んだ男で秋山が唯一尊敬する人物だった。 見た目には鈍重な腹の出っ張った体型の峰岸。今でこそ前線を退いているが、秋山がこの世界で独り立ちするまでは彼が業界の頂点だった。 「すみません峰岸さん。もう少しで終わります、急ぎですか?」 「いや、部屋で待ってるから終わったら声をかけてくれ」 そう言って峰岸は秋山の肩を叩くと、踵を返して事務所の奥に有る『店長室』と書かれた扉に向かって歩き出した。 横目で峰岸を見送りながら、秋山の頭に疑問符が付いた。 元々峰岸は秋山の仕事を信頼している。仕事に口を出す事は滅多に無く最近では皆無と言って良い。問題が発生しても一任してくれるし、最近の仕事で特別難しい案件は無い。 「秋山さん、とうとう営業から卒業ッスか?」 隣から顔を覗かせた後輩の速見が目を輝かせて秋山を見る。 「バカ言え、俺は一生平社員がお似合いだ。椅子に座り続けると尻が割れるんだ」 「尻はみんな割れてますよ。でも秋山さんがずっと昇進しない理由って何なんです?普通秋山さんくらい売り上げ出せば部長とか成るんじゃないですか?」 「言ったろ。俺は一生平社員がお似合いだって」
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