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「へぇ、ただいま…」
私は着物の裾を軽く持ち上げて、芹沢さんのもとに向かった。
顔は強張り、お酌をしようとする手も震えた。
「どうした?儂が怖いか?」
自分でもよく分からない。
ただの噂でしかないのかもしれないのに…
そうか…
私はこの人の威圧感に負けてしまっているんだ…
「いいえ。嬉しくて仕方ないんどす。あの芹沢はんにお酌出来るんやなんて…」
私は溢れないくらいにお酒を注いだ。
そして、笑ってみせた。
芹沢さんは私をじっと見る。
私は何もかも見透かされてしまいそうで怖かった。
でも、逸らしてしまえばそれこそ疑われる。
そう思って、必死に逸らさなかった。
「フッ…そうか…」
芹沢さんは一気にお酒を飲み干した。
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