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今年の梅雨は雨が少ない。本当に梅雨なのかと思うほどだ。明るい日に慣れてしまっている為、やっと雨が降るとやけに空がどんよりと感じる。
二つの傘がアンバランスな高さで並んで進んでいる。今日は雨降りで自転車に乗れないのだ。
高くに開いた傘からふわあーっと間抜けな声が繰り返し聞こえる。すると下に開いた傘から明るい声が返ってくる。
「眠いの?今日は寝坊しないでよかったね」
声の主に航平は鋭い視線だけを送る。
今朝は五時に起こされたのだ。どうやら昨晩、蘭はまたしても航平の目覚ましをいじっていたらしい。昨夜無駄に転寝をしていた航 平は早朝に飛び起きたまま二度寝に失敗した。
「おはよー、お二人さん。今日は早いのね」
伸びのある明るい声に二人が振り返ると麻衣が手に持った傘を降って駆けてきた。
「おはよー、まいちん」
蘭がのんびり応える。「まいちん」は麻衣のクラスメイトからの愛称だ。
「こんな身長差カップルなかなか見ないからすぐわかったよ」
あっはっはと豪快に麻衣が笑う。つられて蘭も楽しそうにふふふ、と笑う。航平は相変わらずむーっとしている。それに気づいた麻衣がはっとして
「ごめん、涌井君。調子乗りすぎちゃって」
というと
「いや、俺はもともとこういう顔です」
とかしこまって言われたものだから麻衣は余計すまなさそうだった。蘭が面白そうに眺めていると麻衣が蘭に向き直る。
「ねえ、鈴井さん部活決まった?」
蘭は反射的に首を横に振る。
「よかったら美術部に入らない?」
「え・・・」
「この間の美術の時間の風景画かなり上手かったし、気になってたんだ」
「へえ、じゃあいいんじゃん?」
てっきり麻衣が部員数確保の為に勧誘したいのだと思っていたのと、蘭の絵が上手いということが意外で思わず航平は感心した。
「いやいや、たまたまだよー」
「そんなことはないよ!授業中に描いてる先生の似顔絵がツボってみんな言ってるし」
落書きまで把握されているとは熱の入れようが半端ない。蘭の目が泳ぐ。
何をそんなに決めかねているのか。上から眺めていた航平が口を挟む。
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