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 2人が2年C組のドアを開けたのはほぼ始業チャイムと同時だった。  運動が取り柄の航平の力走のおかげで遅刻を免れる。ここ数週間のおきまりの光景にクラス中が湧いた。 「よっ、二人とも熱いね~。」 「朝っぱらからデートですか」  野次をスルーしながら席に着くと、担任の安西が名簿で机をバン、と叩いた。 「全員、黙れ。鈴井、涌井、おまえらはもうちょっと余裕を持って登校しろ。仲良しなのはわかったが毎日朝礼がまとまらないだろ」  男勝りなしゃべり方だが29歳の女性体育教師だ。彼強いない歴5年らしく生徒の恋愛ネタにはややひがみ的である。  蘭はにへらとして安西に向かってごめんなさい。と頭を下げた。まったく悪気のない無邪気な笑顔に安西もやれやれといった表情だ。    蘭と航平は家が隣同士の幼馴染だ。二人が初めて会ったのは幼稚園の年長になった頃。  航平の家の隣に蘭一家が引っ越して来たのだ。もともと母親同士が知り合いだったこともあり、自然と家族ぐるみの付き合いになった。  しかし、二人が小学校を卒業すると、蘭の父親の転勤と、彼女自身もお嬢様学校で有名な私立中学校に進学が決まり、引越しすることとなった。航平は地元の中学校へ入り別々の生活へ進んだ。ところが昨年、蘭の母親が事故で亡くなり、蘭と父親はまた元の家に戻ってきたのだ。それが3週間ほど前のことである。    私立のお嬢様学校から転校してきた蘭には注目が集まった。身長154センチほどの華奢な体に、胸の下まで伸びた淡いブラウンの髪は緩やかな曲線を描いている。その髪を耳の下で2つに束ねている。パッチリした目は髪と同じ淡い茶色で黙っていれば外国の人形のようである。いつもにこにこしていてアニメにもでてきそうなかわいらしい声。  一気に男子のお目当てとなってしまい、転校一週間目は蘭を見に来る人が絶えなかった。    一方の航平は、183センチの長身ですらっとして線が細い。昔から目つきが悪い上言葉も少なく、一部の女子には怖がられている。性格は温厚なのだが残念なことに感情が乏しい為あまり理解を示されない。ただスポーツだけは万能で、バレー部他、各部の助っ人にも引っ張りだこだ。  そんなアンバランスな二人が並んで登校してくるものだから回りが放っておかない。とはいえ、同学年の半分程度は小学校のなじみでもあるのでデコボココンビは見慣れた光景でもあった。
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