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「ただいま」
結局、航平は部活の片付けだけ手伝って帰ってきた。
玄関には小さいスニーカーがそろえて脱いである。リビングから出てきた母親が息子の視線に応える。
「あら、早かったわね。蘭ちゃん、来てるわよ」
平然と二階の航平の部屋をニンマリと指差す。
「いやらしい本とか持ってたら危ないわよ」
幸い、持っていない。いや、違うか。と自分でツッこむ。
親として、思春期の息子の部屋に女子を本人不在の内に通すのはどういうものだろうと思う。が、こういう親の元無機質な性格になったのだろうと少年は自己分析した。
部活で動いていないからさしておなかも空いてないし汗もそれほどかいていない。そのまま部屋へ直行する。
ドアを開けると、朝の続きを見ているようだった。チュニックとレギンスに着替えた蘭は、三匹の犬達と主不在のベッドで夢の中だった。すぐに、コーギーのうち蘭の枕になっていた一匹は物音と主のにおいに気づき、尻尾を振って航平に飛びつく。蘭を振り落として。
「んー・・・」
しかし熟睡している様子の幼馴染は起きなかった。
蘭も蘭だ。いくら幼馴染といってももう小さい子供ではないんだから男子の部屋に勝手に入るとはどうなんだ、と部屋の主は再び複雑な気持ちになった。相手が寝ているのをいいことに鞄の角で蘭の頭をつつく。
昔から変わらない、平和な寝顔・・・起きていても大抵平和だが。彼女が引越しをした時はまたこうやって一緒に時間を過ごすだなんて思ってもいなかった。
ベッドにもたれて蘭の寝顔を横目で眺めていると航平にも睡魔が襲ってきた。朝、変な起こされ方をしたからに違いない。
眠気に流されるまま静かに目を閉じた。
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