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懐かしい、夢をみた。
それはまだ小学校に上がったばかりだった。
ランドセルを背負ったまま、蘭と航平は近所の公園で遊んでいた。滑り台と砂場だけの野原に近い公園だ。まだ早い時間なので公園は貸切だった。
航平は滑り台が大好きだった。一人で上っては滑り、を何回繰り返しただろう。他に子供がいないのでいい気分で公園を見下ろしていた。気がつくと、蘭は砂場の奥の木陰でこちらに背を向けてしゃがんでいる。
「蘭ちゃんなにしてるの?」
航平は滑り台から降りて蘭の側にやってくると、彼女はなにやら拾っているようだ。片方の指先でつまんでは閉じられたもう一方の手に入れている。それはなんだかわからない。
顔を上げた蘭が何かに気づいて、航平を通り越した向こうに視線を送る。
「あ、だれかすべりだいにいったよー」
「え?」
滑り台ブームの航平は、皆で使うものだとわかっていても誰か違う人が滑ることをなんとなく嫌がっていた。自分のお気に入りをとられるみたいで。なので反射的に滑り台に目をやった。が、そこには誰もいなかった。
「らんちゃん、だれもいないよ?」
「ほらーおんなのこがすべっているじゃん」
蘭はそう言って空いた手を滑り台に向かって大きく振るが、やはり滑り台には誰もいなかった。
「はい!」
隙をみて蘭が握っていた方の手を航平のズボンのポケットの中で開いた。だまされた、と少年は思った。
「いっぱい見つけたよ」
航平は恐る恐るポケットに手を突っ込むと、小さく丸まった団子虫がごろごろと・・・・
「うわっっ」
鳥肌と共に航平は起き上がった。
(いやなもの思い出した)
じっとり汗のかいた手をシャツで拭う。懐かしい夢だった。
(確か十七匹いたぞ・・・いや、よそう)
目を覚ますように首を左右に振る。
ほんの短い時間うたた寝したようだ。
ベッドにはまだ夢で自分を苦しめた本人が心地よさそうに寝ている。
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