1

7/8
前へ
/59ページ
次へ
「おい、蘭起きろ」  癖のある髪を引っ張る。が、起きないので朝の仕返しとばかりに息の荒いペットを顔の近くに集める。 「ん・・・あつい・・」  思いのほか簡単に目を覚ました。寝たふりをしてたんじゃなかろうか。疑いのまなざしを送る。 「人の部屋でなにしてるんだよ」 「いや、家は一人だから暇で、つい」  蘭の父親は妻亡き後、その仕事を引き継いだ。妻が夢を叶えてつくったお店を継いだのだ。慣れない仕事のせいか遅くまで店に残り帰りは遅いそうだ。仕事を変えた為に蘭が公立の学校に転校したのではないかと航平は考えていた。 「そういえば蘭の母さんって何のお店やってたんだ?」 「占いカフェだよ」 「は?・・・それ、親父さんが今やってんだろ?」 「うん、がんばってるよ」 「いやいや、なんだそれ?占い師ってこと?」  航平の記憶が定かであれば蘭の父親はすごくイケメンであった。切れ長の目が特徴の王子様のような面持ちで髪と目の色は蘭がそっくり受け継いでいる。母親の方が全体的に蘭に似て人形のようでかわいらしいイメージだった。二人が並んでいるのを見るとお姫様と王子様みたいだと幼い頃の少年は思った。  そういえば隣に戻ってきてからまだ姿を見ていない。蘭親子が帰ってきたのは土曜だったが航平は練習試合だったのだ。  どう考えても王子様が占いカフェというのが結びつかない。 「一応ね。占いもするし経営もやってるって。この間なんか雑誌の取材受けたって言ってたよ。今女子高校生の間で人気なんだって」  得意そうに言うと蘭は起き上がり、財布から淡い黄色のカードを取り出す。 『占いカフェLilly bell』  右下にかわいらしい鈴蘭の絵が描かれている。 「リリーベルって鈴蘭てことか。店名の由来は蘭か?」 「うん、お母さんが決めたんだって」  蘭が嬉しそうに説明する。  もともと蘭の母親は趣味で占いをしていたが、ママ友間でよく当たると話題になり、もともと喫茶店をしていた友人のお店で出張占いをしたのが始まりらしい。今は完全に蘭の父親が経営をして占いメインのカフェになっているらしいが。 「お母さんの友達が占いしてくれるんだよ。お父さんもたまに店頭立つみたい」
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加