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鈴木一郎の両親は月に一度の面会にはどちらかが来て、三十分だけ話をするとすぐに帰った。
面会に来る者などいない俺は、たった三十分でも両親に会える鈴木一郎が羨ましかった。
児童養護施設には様々な理由で保護された子供達が暮らし、女子は四人、あとは全員男子。女子は二歳の松崎幸(まつざきゆき)、三歳の野村礼美(のむられいみ)、五歳の山登美春(やまとみはる)、六歳の東田小夏(ひがしだこなつ)が入所し、病弱な鈴木一郎は男子よりも女子と遊ぶことの方が多かった。
施設長や児童指導員は親切に接してくれたが、俺は児童指導員の見えないところで、施設のリーダーである早川や、十六歳の牧瀬武(まきせたけし)に虐められていた。
早川の命令で女子を虐め、鈴木一郎と喧嘩になることもあった。女子は鈴木一郎を『お兄ちゃん』と呼び、とてもなついていた。
俺が施設に入り二度目の夏、早川が施設を出ても俺に対する虐めは収まらず、新たなリーダーである牧瀬や十六歳の川上正士(かわかみまさし)に、殴られたり蹴られたりと暴力行為は日常的に行われていた。
それでも俺はここを出ようとは思わなかった。ここにいればお腹いっぱいご飯は食べれる。殴られても蹴られてもご飯は食べれる。
八歳の俺は、ここしか居場所がなかったんだ。
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