第一章

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「気がつきましたか?」 瞼を開くと白い壁と天井が見えた。俺の口には酸素マスク、無数の管に繋がれ、生命維持装置がピッピッピッと規則正しい音を鳴らしている。 ぼんやりとした視界。 顔にはぐるぐると包帯が巻かれ、目と鼻と口しか出ていない。 せわしく動き回る看護師。 医師が俺の瞳孔をライトで照らす。 俺は一体どうしたんだ? ここは…… 集中治療室……? ぐるぐると天井が回って見える。 俺はあの時、彼と一緒に歩道橋から落下したのか? 「鈴木一郎さんですよね?神戸在住の鈴木一郎さんで間違いないですか?」 神戸在住? 彼と俺は同姓同名、鈴木一郎。 だが住所は異なる。 神戸在住の鈴木一郎は俺ではない。 俺は看護師の問いに目をギョロギョロさせて、頷いた。 「歩道橋から二人落下し、一人は運悪く走行中のトラックと激突し、鈴木一郎さんは脳挫傷で顔面も潰れ、脳死状態でしたが、数日前にお亡くなりになりました」
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