第一章

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◇ 二千二年八月。 公営住宅の敷地に植えられた柿の木に蝉が止まり煩く鳴いている。エアコンのない室内。窓を開け、扇風機の前に座っていても、じっとりと汗ばみ背中にTシャツが張り付く。 父はリストラされ、母は病弱で働けず生活は苦しく、親戚から金を借りるために、両親は家を出た。 冷蔵庫の中には冷やした水道水と、わずかな野菜が入っているだけ。米びつの中も空っぽだ。 この世は金が全て。金がないと生きてはいけない。七歳にして俺は、生きていくための厳しい現実を知る。 額から流れ落ちる汗を拭いながら、冷やした水道水をコップに注ぎ飲み干す。母が出掛ける前にくれた二十円で買った、駄菓子屋の棒つきキャンデーを舐めた。久しぶりのおやつを口にし、口の中に甘い唾液が溜まる。 炭酸のジュースが飲みたいな。冷たいアイスが食べたいな。 父さんと母さん、何かお土産を買って来てくれるかな。 そんなことを考えながら、夏休みの宿題をする。絵日記には海や山に遊びに行った空想を書き綴り、クレヨンで色を塗った。
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