第一章

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けど、父さんも母さんもその夜帰らなかった。冷蔵庫の中の冷水と萎れた野菜をかじり空腹を凌いだ。 翌日も翌々日も父さんと母さんは帰らず、俺は空腹のあまり米びつに残った米をつまみ口の中に入れる。生米はカリカリと奥歯で音を鳴らした。 水だけでお腹を膨らませ外出し、自販機の下に落ちていた小銭を必死でかき集め、コンビニで餡パンを買って貪るように食べた。 両親が家を出て三日後、親戚のおじさんがアパートを訪ねて来た。知らない男の人と一緒だった。 「一郎、よく聞きなさい。父さんと母さんが自殺した。父さんには多額の借金がある。おじさんも他の親戚もお前を引き取ることは出来ない。でも心配するな。児童養護施設で保護してもらえるからな」 「父さんと母さんが死んだの?嘘だ!嘘だ!嘘だ!」 俺をひとり残し、自分達だけで死んでしまった両親。両親が死んでしまったのに、児童養護施設に行かなければいけないのに、泣きながらも俺はこれでお腹いっぱいご飯が食べれると……そう思った。
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