五十嵐家

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「26才で、資格は運転免許のみ…ですか」 千波と書類を交互に見比べながら、担当してくれた職員は少し難しい顔をした。 「経験は……土産物屋に8年間勤務。……接客業ですか?」 「はい、主には」 「パソコン使えます?」 「………ネット見るくらいです」 「エクセルとかは?」 「…………できません」 「…………うーん」 「あ、でも、職種は選びません! どんな仕事でもします!」 意気込んでそう言うと、職員はそうですねぇ、と言いながら千波に向き直った。 「江崎さん、結婚のご予定は?」 「………は?」 「江崎さんの年ぐらいになると、面接で必ず聞かれますよ。雇用側も雇ってから一、二年で辞められると困りますからね」 「………そうなんですか」 (………どっちにしろないけどさ) 面接を一回しか経験していない千波は、そんなプライベートなことも聞かれるのかと軽く面食らった。 結局、大して収穫のないまま職員との面談は終了してしまった。 出口へ向かってトボトボと歩きながら、千波は改めて自分には何もないのだということを思い知らされた気分だった。  
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