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剥いたりんごに爪楊枝を刺して、千波はそれを祖母に手渡した。
祖母は不思議そうに千波を見つめている。
「五十嵐 陸って人、あの家におるの知ってる?」
探り探り尋ねると、祖母はキョトンとしたように首を傾げた。
「もちろん知ってるよ。操さんの息子さんやろ?」
しれっと祖母はそう答えた。
千波は驚いて身を乗り出す。
「し、知ってるんや!……って、操さんて誰やっけ?」
「先生の妹さんやよ。東京に嫁いではったんやけど、旦那さんが事故で亡くなりはって、ほんでこっちに戻ってきて…。もう戻ってきて十年近いんちゃうやろか」
「………あー、そういえば……」
なんだかそんな話をチラッと聞いたことがある気がする。
あまり興味もなかったので、記憶はかなり薄いが……。
(………そっか。じゃああの人、五十嵐先生の甥っ子になるんか……)
陸の顔を思い浮かべ、千波は一人納得した。
「何、あんた陸坊ちゃんのこと知ってるん?」
「いや、知ってるっていうか…」
(……ってゆーか、陸坊ちゃん?)
確かに祖母から見たら坊ちゃんかもしれないが、千波は思わず吹き出しそうになった。
そんな千波に気付かず、祖母はペラペラと話し続ける。
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