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千波はそのまま陸に応接間へと案内された。
庭に面した広い和室で、調度の一つ一つがいちいち立派である。
(ひや~。雪見障子とか、淡路島にはいらないでしょ……)
飲み込まれそうな雰囲気に、思わず千波の体も強張ってしまう。
「お茶どうぞ。楽にしてくださいね」
「あ、はい」
初枝が運んできてくれたお茶を陸に勧められ、千波は畏まって頭を下げた。
「でもまさか初枝さんと江崎さんが顔見知りだとは思いませんでした」
陸の言葉に千波は苦笑を返す。
「………田舎なので世界が狭いんですよね。加えて噂好きだから、割と何でも筒抜けで……」
「ああ…。そういえば僕もこの辺歩いてたら、知らない人に結構挨拶されますね。きっと向こうは知ってるんでしょうけど」
「そうだと思います。特に五十嵐家はこの街では有名ですから」
「はは、参ったな。あまり変なことできませんね」
陸はそう言って明るく笑った。
「初枝さんは僕がまだ子供の頃からここで働いてくれてるんで、きっと僕のこと孫みたいに思ってくれてるんでしょうね」
「あ…私も同じです。千波ちゃんは孫みたいなもんやから…って」
そこで二人は目を見交わせて微笑んだ。
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