五十嵐家

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「あれを見られてたんなら、どう思われてもしょうがないな」 少し目を伏せて自嘲気味に笑う陸を見て、千波は何を言っていいのかわからなくなる。 陸は顔を上げ、小さく苦笑した。 「………半年前に、東京からここに来たと言ったでしょう?」 「はい」 「向こうでは結構忙しくしていたので、急に何もすることがなくなって手持ち無沙汰になってしまって。……それに気楽な一人暮らしだったものだから、なかなかこの家の格式高い雰囲気に馴染めなくて」 「……………」 「母と話をしていても、いつも最終的には結婚の話をされるので息が詰まって……。いつの間にか、母の昼寝の時間を見計らって、あの海岸に行くようになってたんです」 そんな理由があったのかと、千波は内心驚いていた。 まさか陸自身が、この家の雰囲気に馴染めていなかったとは。 「静かだし、滅多に人も来ないし、一人になりたい時にはうってつけの場所で気に入ってたんです。波を見てるだけで気持ちが落ち着くというか……」 「……そう……だったんですか」 「って、僕の話はいいですね」 喋りすぎたと思ったのか、陸は少しはにかんだように笑って軽く咳ばらいした。  
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