五十嵐家

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「はい」 「あの……本当に、ありがとうございました!」 「…………え?」 「五十嵐さん、私の恩人です」 千波の言葉の意味がよくわからないのか、陸は不思議そうに千波の顔を見返した。 千波は髪を耳にかけながら、どう言えばこの気持ちを上手く伝えられるかと懸命に言葉を模索した。 「私あの日、本当に不幸のどん底だったんです。私生活でも物凄く辛いことがあって、更に仕事クビになって、心底死にたいぐらい落ち込んでて……」 「……………」 「そんな時に五十嵐さんに声かけていただいて、しかもすぐに仕事させていただくことになって、凄く凄く感謝してます」 そう言って再び千波が頭を下げると、陸の顔がみるみる赤く染まった。 焦ったように両手を左右に振る。 「ちょ、大袈裟ですから、千波さん。そんな恩人なんて……」 「でも、救われたのは本当なので……」 「…………はぁ」 「五十嵐さんの顔に泥塗らないように、一生懸命仕事しますね!」 真っ直ぐな千波の言葉に、陸は終始戸惑ったような顔をしていたが。 困った顔をしながらも、最後は千波に穏やかな笑顔を見せてくれた。  
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