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「もし何か言ってきたとしても、原因は僕にあるんだから千波さんは何も気にすることありませんよ」
陸はケロリとした口調でそう言う。
みどりの前で千波を褒めちぎったことが原因だと昨日陸が言っていたのを、千波はぼんやりと思い返した。
「………何て言って、褒めてくださったんですか?」
「え?」
「私のこと、みどりさんの前で褒めてくださったんですよね」
「………あー…」
それを聞いた陸は困ったような苦笑を浮かべた。
「──── あの時、千波さんみたいな若い人に使用人なんて勤まるのかと彼女が言うので、千波さんは若いけどしっかりしてますよ、と。
家事もできるし、お茶やお花もたしなむし、着物の着付けも自分で出来るんですよって……結構手放しで、褒めました」
「………そ、そうですか。……ありがとうございます」
自分で聞いておきながら恥ずかしくなり、千波は恐縮して頭を下げた。
「あとそれともう一つ。……多分これが一番みどりさんがカチンときたんじゃないかと思うんですが……」
「………?」
そこで言い淀んだ陸を、千波はキョトンと見つめる。
すると陸は千波から目を逸らし、口元を片手で覆った。
「母が……僕には千波さんみたいな人と、結婚してほしいと思ってるみたいだ、と……」
言いながら陸の顔がみるみる赤くなっていく。
「…………え」
千波はドキリとして、思わず鋏を持つ手を止めた。
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