彼岸花

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※※※※※※※ 翌日の休憩時間、白い彼岸花と生け花用の鋏を持って、千波は陸の部屋へ赴いた。 ノックをすると、「どうぞ」と陸の返事がすぐに返ってきた。 「………失礼します」 千波は遠慮がちにドアを開ける。 陸はよくパソコンを触っているが、今日は珍しくベッドで本を読んでいた。 「あの……昨日言われてた白い彼岸花、持ってきました」 「……ああ、ありがとうございます」 陸は笑ってベッドから下りる。 千波がテーブルの上に新聞紙にくるんだ彼岸花を置くと、陸はパソコンの横に置いていた一輪挿しを持ってきた。 それをテーブルに乗せ、千波の向かいに腰を下ろす。 「ここで、長さ揃えますね」 「はい」 千波が鋏を手にすると、陸は興味深そうにじっと千波の手元を見つめた。 (………う。緊張するな……) 知らず知らず、千波の動悸が早くなる。 黙っていると手元が狂いそうで、千波は話題を模索した。 「あ、あの……」 「はい?」 「昨日あれから……みどり様が何か言ってきたりしませんでしたか?」 ずっと気になっていたことを尋ねると、陸は笑って首を振った。 「大丈夫ですよ。むしろこのまま彼女の足が遠のいてくれたらいいんですが」 「………そう、ですか」 クレームがなかったことに安堵し、千波はホッと息をついた。  
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