1774人が本棚に入れています
本棚に追加
今聞いたばかりの、陸と柚子の会話が頭をよぎる。
久しぶりに顔を合わせた二人の、なんてことのない会話のようにも思えた。
けれど陸の声色は、それだけではない想いが込められているように千波は感じた。
柚子に対する、心配や、懐かしさや。
………そして、愛しさ。
『………あなたが幸せじゃないと、俺は……』
切ない……ただ切ない陸の言葉を思い出して、千波の胸が震えた。
(あんな台詞、ただの知り合いに言う訳ない……)
間違いなく、陸にとって柚子は『特別』なのだ。
それも、従兄弟の婚約者だからではなく。
陸本人にとっての、特別な存在。
今になって、陸や操の言葉がぐるぐると千波の頭を回り始める。
陸が結婚を考えていた相手というのは、柚子のことなのだろうか。
フラれてばかりなんです、と笑って言ったあの時、一体誰を思い浮かべていたのだろう。
腹立ち紛れに捨てられた雑誌。
証が柚子と共にここに来ると電話があった時、不安げに千波の手首を掴んだ手。
ぼんやりと海を眺めていた、どこか寂しそうな横顔。
(…………もしかしたら………)
自分に恋人がいると、本当に紹介したかったのは、証ではなく柚子だったのではないか。
──── 陸は、柚子のことを愛していたのではないか。
そう考えると全ての辻褄が合うような気がして、千波は強く唇を噛み締めた。
…………それと同時に、何故か身につまされるような激しい胸の痛みが、千波を襲っていた。
最初のコメントを投稿しよう!