叶わなかった恋

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今聞いたばかりの、陸と柚子の会話が頭をよぎる。 久しぶりに顔を合わせた二人の、なんてことのない会話のようにも思えた。 けれど陸の声色は、それだけではない想いが込められているように千波は感じた。 柚子に対する、心配や、懐かしさや。 ………そして、愛しさ。 『………あなたが幸せじゃないと、俺は……』 切ない……ただ切ない陸の言葉を思い出して、千波の胸が震えた。 (あんな台詞、ただの知り合いに言う訳ない……) 間違いなく、陸にとって柚子は『特別』なのだ。 それも、従兄弟の婚約者だからではなく。 陸本人にとっての、特別な存在。 今になって、陸や操の言葉がぐるぐると千波の頭を回り始める。 陸が結婚を考えていた相手というのは、柚子のことなのだろうか。 フラれてばかりなんです、と笑って言ったあの時、一体誰を思い浮かべていたのだろう。 腹立ち紛れに捨てられた雑誌。 証が柚子と共にここに来ると電話があった時、不安げに千波の手首を掴んだ手。 ぼんやりと海を眺めていた、どこか寂しそうな横顔。 (…………もしかしたら………) 自分に恋人がいると、本当に紹介したかったのは、証ではなく柚子だったのではないか。 ──── 陸は、柚子のことを愛していたのではないか。 そう考えると全ての辻褄が合うような気がして、千波は強く唇を噛み締めた。 …………それと同時に、何故か身につまされるような激しい胸の痛みが、千波を襲っていた。  
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