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「それじゃ……明日はよろしくお願いします」
「………あ、はい」
陸があっさり話を切り上げたので、千波は少々驚いた。
(打ち合わせ……それだけ?)
門の中に戻っていく陸の背中を見つめながら、千波は毒気を抜かれる。
いつから付き合っているのかとか、出会いはどこでとか、どちらが先に好きになったとか、色々突っ込んで聞かれたらどうするのだろう。
(男って……その場しのぎで、詰めが甘いよなー……)
落ち葉を熊手でかき集めながら、千波は良平の顔を思い浮かべた。
浮気するならするで、自分の家になど連れてこずにホテルかどこかへ行けばよかったのだ。
そうしてくれれば、自分は今も何も気付かずにいたのかもしれない。
千波が来る可能性というものを、少しも考えなかったのだろうか。
浮気を肯定する気はさらさらないが、どうせするなら最後まで隠し通して、墓場まで持って行ってほしかった。
…………それならきっと、こんなに陸に気持ちが揺れることはなかっただろう。
「……………はぁ」
溜息が零れ、千波は空を仰ぐ。
10月に入り、紅葉もすっかり紅く色付いて。
穂波を揺らす金風に。
高い空には、いわし雲。
世間はすっかり秋の様相だというのに、隣は何をする人ぞ、と気になるほど千波の周りは静かではなくて。
明日の来客が、ちょっとした秋の嵐になることを、千波はどこか肌で感じ取っていた。
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