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「いよいよ今日やねぇ。証坊ちゃまが来るの」
茶っ葉を入れた急須にお湯を注ぎながら、初枝はしみじみとそう言った。
今日は初枝と敦子、そして千波の三人が出勤している。
午前の仕事を終え、今から昼休憩なのだが。
「ああ、そうか。初枝さんは面識あるんやったねぇ」
「て言うても、子供の時に二回ほどよ? 向こうは覚えてへんのと違うかな」
「………せやけどほら、例の婚約者も連れてくるんやろ?」
「そうそう。雑誌の写真には目に黒線入ってたけど、今日は実物が見れるんやもんねぇ」
賄いのおかずを口に運びながら、千波は内心で大きく溜息をついた。
麻里子が辞めてから残ったのは一回り以上年の離れた人ばかりで、はっきり言っていつも何かしらの噂話をしている。
千波はいつもそれを横で黙って聞いているだけなのだが、この分だとあの雑誌の記事もとっくにご存知らしい。
「せやけど、お茶持っていくの、千波ちゃんご指名やったもんねぇ」
いきなり話を振られ、千波はおかずを喉に詰めそうになる。
「え、えっと、あの……」
胸を叩いてどう返事しようかと悩んでいると。
「どうせおばさん達はジロジロと不躾に見るって思われてるんよ」
「嫌やわー。せめてチラッと盗み見るぐらいやわ」
そう言って二人はケタケタ笑い、話は勝手に終了してしまった。
千波は二人に合わせて同じように笑ったが、正直な話、既にこの時点で精神的にぐったりと疲れてしまっていた。
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