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陸の宣言通り、2時を少し回った頃、玄関のドアがガラガラと開く音が聞こえた。
「ただいま戻りました」
続いて陸の声が聞こえてくる。
千波はドキッとして、思わずギュッと胸元で手を握りしめた。
(………い、いよいよや……)
爆発しそうなぐらい、動悸が激しくなっている。
さっき念入りに化粧直しをしたが、千波はもう一度鏡を覗き込んだ。
陸の恋人として紹介されるのだから、それなりにしておかないと。
(うわー、目の下もうちょっとコンシーラーしたほうがよかった? でもあんまり厚塗りしてもなー)
「千波ちゃん。コーヒー三つやって」
「………あ、はい!」
陸を出迎えに行った初枝が、台所に戻ってきた。
千波は慌てて鏡から離れる。
サイフォンをセットしていると、その横で敦子がヒソヒソと初枝に話し掛けた。
「どうやった?」
「いやー、それが証坊ちゃますっかり大きくなって! 物凄い男前になってたわー」
「いや、ほんま?……ほんで例の婚約者は?」
「それが可愛らしくて、礼儀正しくて、すごい印象良かったわ」
「そうなん?……やっぱり週刊誌に書いてることなんて、アテにならんねぇ」
来客用のコーヒーカップを三つ用意しながら、千波はやっぱりそうなのか、と、そっと嘆息した。
有名税というやつだろうが、玉の輿に乗るのもある意味大変だ。
………まあもっとも、自分には一生縁のない話だが。
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