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陸の向かいに、男女が一組座っていた。
(………えっと、確か成瀬 証さんと……橘 柚子さん、やったな)
前もって陸に教えてもらっていた名前を、千波は心の中で復唱した。
証は足を崩していたが、千波が入ってきたので静かに正座になった。
なんとなく誰の顔も見ることができず、千波は顔を伏せたままテーブルにケーキやコーヒーを並べる。
証は軽く会釈を返しただけだったが、柚子の前にコーヒーを置くと「ありがとうございます」と柔らかい声で礼を言われた。
その時になって千波はようやく顔を上げた。
目が合うと、柚子はニコッと人懐こそうな笑顔を見せた。
千波はペコリと会釈を返す。
(………確かに……すごい感じいい……)
物凄い美人という訳ではないが、クリクリとした垂れ目がちの目がとても可愛らしい。
小柄で華奢、少しだけ染められた柔らかそうな髪がサラサラと細い肩にかかっている。
キャバ嬢をしていたとはとても思えないほど、どこにでもいそうな普通の女性だった。
いっぽう証はというと。
やはり面差しが、陸によく似ていた。
焦げ茶色の髪を器用に遊ばせ、いかにも今風の若者。
それでもどこか品があり、チャラいという印象は受けなかった。
キリッとしたまなじりのせいか目の力が強く、驚くほど顔の造形がよくできている。
若いせいか陸より線が細いように感じた。
(………確かにイケメンっちゃあ、イケメンやけど……)
───── だが、何だろう。
何だか、物凄く。
物凄く。
…………俺様っぽい。
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