1774人が本棚に入れています
本棚に追加
「千波さん」
不意に陸に名を呼ばれ、千波はビクッと体を揺らした。
慌てて証から陸に目を向ける。
「は、はい」
「こっち。俺の横に来て」
いつもより砕けた口調でそう言い、陸は自分の横のスペースをポンポンと叩いた。
「あ、はい」
千波は緊張の面持ちで立ち上がり、おもむろに陸の横に腰を下ろした。
証と柚子は何が始まるのかと、不思議そうに陸と千波を眺めている。
やがて陸は一つ息を吸い込み、直後にっこり笑って口を開いた。
「こちら、江崎 千波さん。……俺が今、お付き合いしているかたです」
その瞬間、証と柚子が大きく身じろぎしたのが空気を通して伝わってきた。
千波は畳に手をつき、深く頭を下げる。
「陸様とお付き合いさせていただいています、江崎 千波と申します。どうぞよろしくお願いします」
丁寧に挨拶をしてからゆっくり顔を上げると。
食い入るように自分を見つめる、証と柚子の瞳にぶつかった。
千波はなんとか笑顔を作って背筋を伸ばす。
「じゃあ千波さん。こちらも紹介しますね」
「………あ、はい」
自分の挨拶の仕方に問題はなかったかと不安げに陸を見上げると。
陸は大丈夫というように優しく微笑み、小さく頷いた。
その笑顔を見て、千波はホッとする。
………とりあえず、第一関門突破というところか。
最初のコメントを投稿しよう!