叶わなかった恋

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「千波さん」 不意に陸に名を呼ばれ、千波はビクッと体を揺らした。 慌てて証から陸に目を向ける。 「は、はい」 「こっち。俺の横に来て」 いつもより砕けた口調でそう言い、陸は自分の横のスペースをポンポンと叩いた。 「あ、はい」 千波は緊張の面持ちで立ち上がり、おもむろに陸の横に腰を下ろした。 証と柚子は何が始まるのかと、不思議そうに陸と千波を眺めている。 やがて陸は一つ息を吸い込み、直後にっこり笑って口を開いた。 「こちら、江崎 千波さん。……俺が今、お付き合いしているかたです」 その瞬間、証と柚子が大きく身じろぎしたのが空気を通して伝わってきた。 千波は畳に手をつき、深く頭を下げる。 「陸様とお付き合いさせていただいています、江崎 千波と申します。どうぞよろしくお願いします」 丁寧に挨拶をしてからゆっくり顔を上げると。 食い入るように自分を見つめる、証と柚子の瞳にぶつかった。 千波はなんとか笑顔を作って背筋を伸ばす。 「じゃあ千波さん。こちらも紹介しますね」 「………あ、はい」 自分の挨拶の仕方に問題はなかったかと不安げに陸を見上げると。 陸は大丈夫というように優しく微笑み、小さく頷いた。 その笑顔を見て、千波はホッとする。 ………とりあえず、第一関門突破というところか。  
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