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「それに、元々千波さんと会ったのは別の場所なんです」
「そうなのか?」
「はい。それでたまたま彼女が仕事を探していたので、僕がここにスカウトしたんですよ」
陸はそう言うと千波に視線を向け、ね?と言って微笑んだ。
千波ははい、と答えて頷く。
すると証は足を崩し、少し呆れたように陸を眺めた。
「なんだよ、じゃあ気に入った女傍に呼んだってことかよ。なんか余計やらしいな」
「…………証!」
ずっと黙っていた柚子がさすがに窘めるように証の袖を引いた。
すみません、と千波に向かって頭を下げる。
明け透けな証の物言いに少々面食らったが、千波はいいえ、と笑って首を振った。
陸から前もって「証は悪い奴じゃないんですが、少々口が悪いんです」と聞いていたので、ある程度の心構えはできている。
………確かに想像以上に生意気そうだが。
それでも変にお高くとまることもなく、二人から受ける印象は悪くなかった。
「………まあ、とにかくそういうことなんで。明日は千波さんにこの辺りを案内してもらいますから」
まだ少しそわそわしたような二人を尻目に、陸はそこで話を終わらせようとした。
横に座る千波に軽く頭を下げる。
「それじゃ千波さん、仕事に戻ってください」
「………あ、はい」
「あ、それと。少し大きめの灰皿を持ってきてくれますか。……こいつ、すごいヘビースモーカーなんで」
「わかりました」
この場を離れられることに少しホッとして、千波は最後に深くお辞儀をしてから盆を手にして立ち上がった。
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