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「………はあ~~。緊張した」
台所に戻ってきた千波は、誰もいないことを確認してから、ヘナヘナとその場にうずくまった。
やはり慣れない嘘をつくというのは、かなり体力を消耗する。
この分では、明日はもっと大変な思いをしそうだ。
(………っと、灰皿、灰皿)
気合いを入れ直し、立ち上がる。
棚の奥からガラスで出来たかなり重厚感のある灰皿を取り出し、千波は再び応接間へと向かった。
両手でそれを抱えながら、先ほど会った証や柚子のことを思い出す。
証はかなり生意気そうだったが、柚子は雑誌の印象と違い、人当たりのいい普通の可愛らしい女性だった。
(明日は仲良くなれる、かな。……あ、でも五つも年下なんやっけ?)
年齢も、住んでいる環境も全く違うなか、果たして話が合うのだろうか……。
そんなことを考えていると、廊下の向こうから誰かが歩いて来る気配がした。
千波は俯いていた顔を上げる。
歩いて来たのは証だった。
証は千波に気付き、ふと足を止めた。
「…………トイレ、こっちでいいんでしたっけ」
「え、あ、はい」
千波も立ち止まり、今歩いてきた廊下を振り返った。
「そこの角を右に行っていただいて突き当たりにございます」
「…………ありがとう」
短く証は答え、すぐに歩き出そうとした。
だがその足を止め、不意に千波に話しかけた。
「………えっと。千波さん……でしたっけ」
「はい」
応接間に向かいかけていた千波は立ち止まり、証を振り返った。
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