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「えっと……その……」
声をかけたはいいものの、何から話せばいいのか考えが纏まっていない様子だった。
証は首の後ろに手を置き、廊下に目を伏せる。
「陸は……その……」
陸の名が出て、千波はドキッとした。
もしやもう嘘がバレたのか、はたまたお眼鏡にかなわなかったのか。
千波はとっさに身構えたが、証は予想外のことを言った。
「陸は……大丈夫ですか」
「……………」
千波は軽く目を見張る。
(………大丈夫……?)
その言葉の意味を図りかねていると、千波の困惑に気付いたのか、証は軽く手を振った。
「いや、その。……上手くこっちで、楽しくやってんのかと。……環境ガラッと変わったし……馴染めてんのかって……ちょっと、思って」
言いながらうっすら紅潮していく証の顔を、千波は驚いて見上げた。
「あいつ、向こうにいた時から全然大丈夫じゃない時でも、笑って大丈夫だって言うから。……特に俺には。……だから、ホントのところはどうなのかと……」
「……………」
無意識に、千波の口元に笑みが浮かぶ。
(………なんや。いい子やない)
派手な肩書きや容姿、乱暴な言葉遣いのせいで悪目立ちしがちなのだろうが。
根っこのところは、兄変わりの従兄弟のことを心から心配している、優しい青年なのだ。
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