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千波は笑顔でしっかりと頷いた。
「陸様は、大丈夫ですよ」
「……………」
証は静かに目を上げる。
その時に真正面から見つめられ、千波は改めて証の顔が非常に整っていることに気が付いた。
(はあ~、この顔で成瀬グループの御曹司じゃ、そりゃあ騒がれるわ……)
そう思いながら千波は言葉を続けた。
「確かに始めはあまり馴染めなかったみたいですけど、今は大丈夫です。皆からもとても慕われてますし」
それを聞いた証の鋭い目が、ホッとしたように柔らかい色を帯びた。
それだけで、虚勢を張ったような顔が年相応に幼く見える。
「………そうですか」
「はい」
千波が再度笑顔で頷くと、証は少しはにかんだように千波から目を逸らした。
「………わかりました。ありがとうございます」
ペコッと軽く会釈すると、証はそのまま千波に背を向けて歩き出した。
微笑ましい気持ちで、千波はそれを見送る。
(………可愛い。空が生きてたらあれぐらい、か……。あんな風にぶっきらぼうで、照れ屋で……ちょっと生意気な感じに育ってたんかな……)
クスクス笑いながら千波も踵を返して再び応接間へ向かって歩き始めた。
「…………色々、大変だったみたいですね」
部屋の前まで来たところで、静かな陸の声が千波の耳に飛び込んできた。
千波は無意識に障子の前で動きを止める。
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