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「あはは、五十嵐さんも見たんですか、あの記事」
神妙な陸の声とは対照的に、柚子の声は明るかった。
あの週刊誌の記事の話をしているのだと悟り、千波は声をかけるタイミングを失ってしまう。
「あんな誤解されるような書き方をされて……辛かったんじゃないですか」
「平気です。証と付き合うって決めた時からこれぐらいのことは覚悟してたし」
「………本当ですか。……無理、してませんか」
「大丈夫ですよ。……それに、へこみそうな時は、証がちゃんとフォローしてくれますから」
二人の会話を聞きながら、千波の胸がドキン、ドキンと激しく脈打ち始めた。
盗み聞きをしているような罪悪感を感じながらも、何故か体が動かない。
──── 聞いたこともないような、陸の声。
切ないような。
いたわるような。
…………愛しいような。
やがて、少し笑いを含んだ陸の声が聞こえた。
「………そうですか。……証とは、仲良くやっているんですね」
「…………はい」
躊躇ったように、柚子が返事を返す。
陸が小さく、息をついたのがわかった。
「………こんな風に秋めいてくると、どうしても思ってしまうんです。……もし、あなたが証と喧嘩して家を飛び出していたら、一体どこに行くんだろう、と」
「…………五十嵐さん」
「でも、仲良くやってるみたいだし、幸せそうで……安心しました」
その直後、引き絞るように切ない声で陸は言葉を続けた。
「………あなたが幸せじゃないと、俺は……」
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