入学式 - 当日 -

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          - 1 -  『新装版・欲のすべて』。  それはさっきまで僕が読んでいた、一風どころか千風くらい変わっている辞典の名前だ。  全400ページを使って、長々と現代日本の欲望やらなんやらについて説明(解明?)している、何やら実験レポートのような辞典だった。  つい数日前に買ったと思う辞典で、税込みで3,698円し、僕のなけなしの小遣いをごっそりと半分以上削り取ったという事が印象的な辞典で、どこぞの高名で有名な心理学の教授が執筆したというらしいが、生憎と僕はそういう系統には興味が無いので、覚えていない。  確か名字に『室』という漢字が入っていたような気がするが、どう頭を捻ってもやはり思い出すことはできなかったから、敢えなく諦めた。  そこまで大切なことじゃないからね。  ちなみに名前は覚えているのかと聞かれれば、僕の答えは『ノー』だ。名前は珍しく、あまり……というよりまったく見かけない名前だったが、やはり覚えていない。  きっとその時の僕は覚えたくなかったのだろう。うん、きっとそうだ。  それにどうせこれは僕の本だ。  その気になればそのなんとか室だか室なんとかだか分からない、作者である教授さんの名前は見れるだろう。    
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