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行きたい場所があると言って陸が千波を連れてきたのは、なんとあの海岸だった。
国道からの急な階段を降り、二人は砂浜に出る。
満潮の跡の湿った場所を避けて、陸はゆっくりと砂浜に腰を下ろした。
千波が続いて座ろうとすると、陸が慌ててそれを制した。
「あ、汚れますよ」
そう言ってジャケットを脱ぎ、砂の上にそれを敷こうとする。
「大丈夫です、ジーパンだし」
「………でも」
「ホントに平気です」
千波は笑って首を振り、ストンと陸の横に腰を落とした。
陸は黙って千波の横顔を見つめ、しばらくしてから持っていたジャケットをそっと千波の肩にかけた。
「………寒いから」
そう言って微笑んだ陸の顔を見て、千波の胸がツキンと痛む。
たまらず目を逸らし、視界に海を映した。
「………ありがとうございます」
ボソッと呟くと、陸も無言で海に目を向けた。
海面には月が移り込み、渡って歩けそうな金色の一本道を作っている。
それがユラユラと揺れるのを眺めていると、不意に陸が口を開いた。
「…………千波さん、ここで夕陽に向かってバカヤローって叫んでましたよね」
「……………っ!」
記憶から抹殺したい事を言われ、千波の頭にカーッと血が上った。
「あ、あのことはもう、忘れてくださいっ!!」
「あはは」
可笑しそうに笑ったあと、陸は手についた砂を軽く払った。
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