王子様じゃない

3/40
1655人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「ど、どうなさったんですか」 奥歯を噛み締めて涙を堪えながら、千波は無理に笑顔を作る。 「千波さんを待ってたんです。今日のお礼を言いたくて。……あと、明日のことと」 「……………」 (…………明日………) 思わず千波は目を伏せた。 千波の様子がおかしいことに気付いたのか、陸が気遣うように少し首を傾げた。 「…………千波さん?」 「……………」 …………もし、自分の考えが正しいのならば。 本当は、自分なんかが踏み込んでいい領域ではないのかもしれない。 けれど、陸が何故、どういった意図で。 千波に恋人のふりを頼んだのかを、知らなければならないと思った。 それを知ることで、明日の自分の役割が、わかる気がする一一…。 「……………陸様」 凛と顔を上げた千波を、陸は少し驚いたように見つめ返した。 短い躊躇の後、千波は意を決して口を開いた。 「陸様が……私を恋人として紹介したかったのは……本当は、柚子さんだったんじゃないですか」 一気に吐き出した千波の言葉に。 陸はゆっくりと目を見開いた。 「……………」 しばらく無言で千波の顔を見つめていた陸だったが、やがて小さくふっと息をついた。 参ったというように首の後ろに手を置き、苦い笑いを浮かべる。 「女の人は、鋭いなぁ……」 そう呟いて空を仰いだ陸を、千波は黙って見つめた。 陸は長い間、じっと虚空を見上げ……。 覚悟を決めたように、千波の顔を見下ろした。 「千波さん。……今から少し、付き合ってもらえますか」    
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!