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「………………」
陸の問いに、千波は緩く目を見張った。
ポカンとしたような、間の抜けた表情になる。
「………は。……え?」
反応も鈍く、いかに自分の質問が唐突だったかを陸は自覚した。
だが引っ込みがつかず、ぐるっと椅子を回転させて真っ直ぐに千波の顔を見上げた。
「昨日……俺と彼氏を間違えたでしょう?」
「……………!」
その瞬間、千波はハッキリと顔色を変えた。
胸に抱えた盆を掴む手に、ギュッと力がこもったのがわかった。
「………………」
沈黙に耐え兼ね、千波はつむじが見えるほど深く俯く。
随分長い間うなだれていた千波だったが、やがて観念したようにポツリと口を開いた。
「…………赤マル………」
「……………え?」
蚊の鳴くような声を拾うことが出来ず、陸は眉を寄せて身を乗り出した。
萎縮して、千波はますます小さくなる。
「………た、煙草が……。彼の吸ってる煙草が、陸様と一緒なんです……」
「………………」
「それで……寝ぼけて間違えてしまって……」
陸はチラッと脇に置いてあった赤い煙草の箱に目を走らせた。
(赤マルって…その赤マルか……)
気が抜けて、陸はゆっくりと肩の力を抜いた。
てっきり、顔か声が千波の彼氏に似ているのかと思ったが。
どうやら、そうではなかったらしい。
…………だが。
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