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陸の部屋の前に立ち、千波は横を向いて大きな深呼吸をした。
意を決し、ドアをノックする。
「はい、どうぞ」
すぐに返事が返ってきて、千波は唇をキュッと噛み締めながら恐る恐るドアを開けた。
「………おはようございます。コーヒーお持ちしました」
遠慮がちに声をかけると、パソコンの前に座っていた陸はゆっくりと千波を振り返った。
陸の顔を見て、千波はドキリとする。
「おはようございます、千波さん」
反して陸は、全くいつもと変わらない笑顔でそう答えた。
千波は恐縮しながら陸の前にコーヒーを置く。
すると千波が口を開く前に、陸がペコリと千波に頭を下げた。
「昨日は一日、本当にありがとうございました」
先に昨日の話題を出されて、千波は激しく動揺する。
盆を胸に抱えながら、千波は焦って深く頭を下げた。
「いえ、全然至らなくて、すみません! ……それに最後にあんな失礼なことして、本当に申し訳ありませんでした!」
震えた声でそう言った千波を、陸は驚いて見つめた。
顔を上げた千波は、泣きそうに顔をくしゃくしゃにしている。
「僕は気にしてませんよ。寝ぼけてただけでしょう?」
「………でも……」
「本当に。そんなに気にしないでください」
柔らかく笑いかけると、千波は何とも言えない表情で陸の顔を見つめ返してきた。
それを見て、陸の胸に複雑な感情が沸き起こる。
「…………千波さん」
「は、はい」
静かに声をかけると、千波はビクッと肩を揺らせた。
「………俺、千波さんの彼氏に、似てるんですか?」
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