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陸はふっと息をつき、笑顔で千波を見上げた。
「もうお互いに、謝ったりするの無しにしませんか。昨日の別れ際から、キリがないような気がして……」
「………でも」
「そもそも千波さんをそこまで疲れさせてしまったのは、僕があんなことを頼んだからだし…。あんまり謝られると、僕もいたたまれないんで」
そう言われると、千波はもう何も言うことができなかった。
本当なら、あと100回謝ったって足りないぐらいなのに───。
「それよりも、改めて千波さんにお礼したいなーと思って」
「………え?」
ずっと顔を伏せていた千波は、ようやく目を上げて陸の顔を視界に入れた。
先ほど見せた不機嫌さが錯覚なのではないかと思うほど、今の陸は穏やかに微笑んでいる。
それを見て、わずかに千波はホッとした。
「あ、あの…。改めてって……」
「はい。よかったら近々、一緒にご飯食べに行きませんか。昨日のお礼がてら、ご馳走しますので」
にこやかに答えた陸とは対照的に、千波はギョッと目を剥いた。
慌てたように手を横に振る。
「そんな……とんでもない! 昨日も散々ご馳走になったし、そもそもお礼される程のことしてませんから!」
千波はキッパリとそう断った。
昨日は何処へ行くにも全て陸がお金を出してくれ、自分が財布を出したのは賽銭を投げた時ぐらいだ。
ましてや夕飯はあんなに高いお寿司をご馳走になったというのに、これ以上まだお礼をされる義理はどこにもない。
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