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明後日の夜に一緒に居酒屋に行くことを約束してから、千波は静かに部屋を出ていった。
パタン、とドアが閉まると同時に、陸は椅子の背もたれに凭れてジッとパソコンの画面に見入った。
(………これって、パワハラかなぁ……)
正直お礼をしたいのか、ただ千波と食事に行きたいのかわからないまま、強引に誘ってしまった。
…………千波が断れないのを、重々承知で。
(なんであんなに……イライラしたんだろう……)
今になって、後悔のような気持ちに襲われる。
吸っている煙草が同じだという理由で、彼氏と間違われて抱き着かれた。
その事実を知った途端、何故か無性に心が波立った。
自分が千波に対して抱いている感情は、明らかに独占欲だ。
職を無くして困っていた千波をここに連れて来て、ほぼ毎日傍にいて、陸様なんて呼ばれて。
それだけで、まるで千波が自分のものであるかのような錯覚を起こしてしまっているのだろうか……。
「…………これじゃあ証と変わらないよなぁ……」
柚子に対して、一種狂気に近いような執着を見せていた証を思い出し、陸は天井を仰いでそっと目を閉じた。
彼氏のいる千波にとって、そんな一方的な独占欲など甚だ迷惑な話に違いない。
自分で自分の気持ちがよくわからず、持て余した陸はギッと椅子を軋ませて身を起こした。
同時に、パソコンの横に置いてあった煙草の赤い箱が目に映る。
「……………」
陸はデスクに頬杖を付きながら、それをピンと指で弾いて大きく嘆息した。
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