走り出す想い

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(………う……嘘……) その時、千波達に気付いたその男性も、驚いたように目を見開き足を止めた。 一緒にいた同僚らしき二人が、急に立ち止まった男性を不思議そうに振り返る。 「………森島?」 「………………」 だが男性はそれには答えず、ただ食い入るように千波の顔を見つめていた。 「……………ちぃ?」 喘ぐように男性が呟いたのを見て、陸はゆっくりと千波に目を向けた。 その顔を見て、陸はハッとする。 酒のせいでほんのりと血色の良かった千波の顔が、今は信じられないほど蒼白になっていた。 「…………良平………」 震える声でポツリと呟いた千波の言葉に、陸は驚いて大きく目を見張った。 バッと男性を振り返る。 (良平って、確か……) その名前には聞き覚えがあった。 あの日、千波に抱き着かれた時、耳元で囁かれた名前。 彼氏だ、と気付いた瞬間、しまったという思いが陸の頭をよぎった。 やましいことは何もないが、この状況はさすがにまずい。 いくら現在、冷却期間を置いているとはいえ、男性と二人きりで食事に行ったとなると千波の立場が悪くなりかねない。 ましてや第三者の自分が、この場合どこまで踏み込んでいいのかも咄嗟に判断がつき兼ねた。  
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