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「僕の結婚なんか五十嵐家になんの影響もありませんよ。あるとしたら跡取りの大地のほうです」
「……………」
「僕はただの出戻りの息子ってだけです。しかも無職だし。セレブどころか居候の穀潰しですよ」
(……ごっ……穀潰し……?)
余りにも余りな自虐の言葉に、千波は毒気を抜かれてしまった。
そこまで言わなくてもと思ったが、陸は尚、表情を険しくしたままだ。
「………それに、自分の結婚相手ぐらい自分で見つけます」
「……………」
力強く言い切った陸の言葉に。
何故か千波は大きな安堵を覚えていた。
(………そっか。……みどり様との結婚はないんか……)
安堵すると同時に、陸がまるっきりのセレブではなくそれなりの苦労も経験していると知って、それもまた嬉しかった。
昨日感じた二人の間に横たわる境界線が、少し薄らいだように思えたからだ。
どこかホッとしたような千波を見て、陸は少し冷静さを取り戻す。
東京の会社にも沢山いたが、みどりのように見え透いた媚びを売る女性が陸はどうにも苦手だった。
甘えた声を出し、下から舐めるような視線で見上げてきて、か弱い部分を見せつつ妙に積極的で。
笑顔と濃い化粧の裏で何を考えているのかサッパリわからなくて。
だから今まで上手くそれを交わし距離を取ってきたというのに。
千波の口からみどりとお似合いだと言われて、何故かそれが無性にカチンときてしまった。
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