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聞こえてきた低い声に、千波は受話器を強く握りしめた。
安心感すら覚えるような優しい声は、間違いなく陸のものだった。
「………おはようございます」
『千波さん、ですよね? おはようございます』
祖母が家にいないことを知っているのにわざわざ確認するところが、律儀な陸らしい。
『今日はこんな天気ですから、お休みしていただこうと思って。それで連絡を』
「…………えっ」
驚き、千波は思わず大きな声をあげてしまった。
「あ、あの…。私、大丈夫です。行けます」
『…………え?』
今度は陸が驚いたような声を出した。
「近くだし、それに……」
『危ないから無理ですよ。友美さんとも話して今日はお手伝いさんはみんな休んでもらうことにしたんです』
「………………」
『一日ぐらい何とでもなりますから。だから今日は家にいてください』
「………でも……」
言いかけて千波は口を噤んだ。
一人でこの家にいるのが怖いなんて、口が裂けても言えない。
お前一体いくつなんだと呆れられてしまう。
「……はい。……わかりました」
『……………』
力なく返事を返すと、受話器の向こうで陸は訝るように口を開いた。
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