2245人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
良平の腕に揺られながら、千波は少しずつ平常心を取り戻し始めた。
慣れ親しんだ腕の中は想像以上に温かくて、懐かしくて。
………そして、安心感を覚えた。
(………良平……)
ドキドキこそしないが、今の自分にはこの安心感のほうが必要なのかもしれない、と。
久々に近くで見る良平の顔を見上げながら、千波はぼんやりとそう思った。
2階の千波の部屋に入り、良平はそっと千波をベッドに横たえさせた。
そうして緩く髪を撫でる。
「気分はどうや」
「………ん。……平気」
「こんな風になるの、久しぶりちゃうんか」
「………うん。……おばあちゃんのこととか色々あって、心労が重なったかも……」
良平は黙って千波の髪を撫で続ける。
「今日はずっと一緒におろうか?」
「……………」
その言葉を聞いた千波は、ハッと目を見張った。
失念していた陸の存在を思い出す。
『今日はずっと、俺が傍にいますから』
それと同時に陸の言葉が蘇り、我に返った千波は慌てて良平の手を振り払った。
「………平気やから。一人で大丈夫やから、もう帰って」
「………せやけど」
「ほんまに平気やから。……だからもう、帰って」
ピシャリと撥ね付けられ、良平は小さく息をつく。
これ以上は押しても引かない頑固者であることは、5年の付き合いで重々わかっていた。
最初のコメントを投稿しよう!