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「これ、彼岸花ですよね」
「………はい」
「気付いた時、私すっごく嬉しくて」
胸に盆を抱え、千波はほんのりと頬を赤く染めた。
照れたような横顔がチラリと見え、陸の胸がぎゅっと締め付けられる。
千波は陸に背中を向けたまま、ぽつりと呟いた。
「なんだか自分の中で、彼岸花って陸様との思い出みたいに思ってて。もしかしたら、陸様も同じように感じてくれてたのかなー、なんて、勝手に……」
その時、ガタッと陸が椅子から立ち上がる音がしたので、千波は言葉を止めた。
振り返りかけた時にはもう、陸は千波のすぐ後ろに佇んでいた。
「陸さ……」
「簪、少し曲がってる」
小さく笑い、陸はそっと千波の髪に挿してある簪に触れた。
「え、あ、す、すみません!」
陸が曲がった簪をなおしに来てくれたのだと悟り、千波は慌ててドアの方へ向き直った。
カーッと顔が熱くなってくる。
(みっともないなあ、もう。ちゃんと確認したつもりやったのに……)
陸が簪を髪に挿し直してくれている間、恥ずかしさと申し訳なさで千波は強く唇を噛み締めた。
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