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「………………」
綺麗に結い上げている髪に簪を挿した陸は、そのままじっと千波を見下ろした。
見ると、細いうなじが赤く染まっている。
それだけで千波が恥ずかしがっているのだとわかり、どうしようもない愛しさが込み上げてきた。
「……………っ」
気が付くと、陸は千波の体を囲うようにして両手をドアに付けた。
驚いた千波は、肩越しに陸を振り仰ぐ。
陸の両腕に閉じ込められるような形になっていたので、体ごと向き直ることは叶わなかった。
「………陸……様?」
「昨日……」
千波の声を遮って、陸は口を開いた。
「昨日、すごく、悔しかった」
「………………」
「千波さんがうずくまっていても、何が起こったのかわからずにオロオロするだけで…。
彼氏が千波さんの元に駆け寄って介抱する時も、千波さんが彼氏に助けを求めた時も、俺はただ見ているしかなかった……」
悔しそうな陸の言葉に、千波は目を見開く。
バッと顔を上げ、勢いよく首を左右に振った。
「だって、陸様は何もご存知なかったから……」
「────だから、悔しかったんです」
切なげに陸は目を細めた。
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