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「千波さんは俺の苦しみを取っ払ってくれたのに、俺は千波さんが抱えているもの、全然知らなかったから……」
「………………」
「知っていたら台風の日だって、もっとちゃんと力になれたかもしれないのに…って」
「そ、そんな……」
決して触れられている訳ではないのに、こんなに近くにいるだけで陸の熱が伝わってくるようだった。
千波は陸から目を逸らし、目の前のドアを見つめる。
陸の影が、すっぽりと自分を覆ってしまっていた。
「あの日は……来ていただいただけで、すごく心強かったですよ」
「でも……俺は……嫌だった」
ドアに押し当てていた陸の手が、悔しそうにぎゅっと拳を作った。
千波の心臓が、にわかにざわつき始める。
「千波さんが頼るのは、彼氏じゃなくて、俺がよかった……」
「……………!」
陸の両手が千波の肩を背後からそっと抱き、千波はビクッと体を硬直させた。
直後、陸は千波の左の耳にそっと唇を寄せて囁いた。
「煙草……気が付きましたか」
「………………」
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