忘れ花 2

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身動きも返事もできない千波に構わず、陸は耳元で言葉を重ねた。 「今も、煙草の匂い、しますか?」 「………………」 「でもこれは俺の匂いであって、千波さんの彼氏のじゃない」 そう言うと、陸はゆっくりと千波の体を自分の方に向けさせた。 千波はただ、瞬きもせずに食い入るように陸を見上げていた。   「煙草をやめるとか、そんなのただの逃げだって気付いたから…。だから……」 陸はそこで言葉を止めた。 陸が何を言おうとしているのか図りかね、千波はただ息をつめて陸の顔を見つめているしかなかった。 「………………」 お互い逸らすことなく、真っ直ぐに視線を絡ませる。 千波の肩を掴む陸の手にグッと力がこもった、その時だった。 ピリリリ、と携帯の着信音がどこからか鳴った。 ドキッとして、千波は大きく肩を震わせる。 どうやら陸の携帯が鳴ったようで、メールだったのか着信音は一回でぷつりと切れてしまった。 だが一瞬それに気を取られたのか、力強かった陸の手の力がふっと緩み……。 それを機に千波はするりと陸の腕から逃れた。 「し…っ、失礼しますっ!」 ペコッと陸に頭を下げ、千波は踵を返してそのまま部屋を飛び出した。 陸の声が追いかけてきたような気がしたが、千波は足を止めなかった。  
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