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「……………っ」
廊下を曲がったところで、千波は盆を胸に抱えたままヘナヘナとしゃがみ込んだ。
というよりは、足元からくずおれたような感覚。
(……い、今の……何……?)
暴れ回る心臓をギュッと着物の上から押さえ込み、千波はじっと板の廊下を凝視する。
まだ肩に残る、陸の手の強さ。
耳にかかった、吐息混じりの声。
切なげに紡がれた、言葉。
(どういうこと…!? どう解釈したらいい訳…っ!?)
陸の行動、言動の何一つも理解できず。
千波はしばらく冷たい廊下に座り込み、一人頭を抱えて悶絶していた。
※※※※※※※
「………………」
ひらり、と捕まえた蝶が手の平から逃げるように。
千波が自分の腕の中から、去ってしまった後。
陸はしばらくぼんやりと、目の前で閉められたドアを見つめていた。
ベッドの上に置きっぱなしだった携帯が鳴ったことを、一拍の後思い出す。
ノロノロとベッドに腰を下ろし、枕元に置いてあった携帯を拾い上げた。
メールの着信ランプが点滅し、開くと証からのメールである。
読んでみると、特に中身のない挨拶のような内容だった。
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