2244人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「…………ただいま戻りました」
ガラガラと引き戸を閉めると同時に、待ち兼ねたように廊下の奥から友美が走ってきた。
恐らく千波の祖母のことを聞き、心配しながら陸の帰りを待っていたのだろう。
「お帰りなさい」
「…………はい」
返事をしてふと友美を見ると、顔が固く強張っている。
「………千波さんのお祖母さん、どうやったの?」
「………え、……あ……」
陸はハッと口元に手を置いた。
よほど自分はひどい顔をしていたらしく、千波の祖母に何かあったのかと友美は勘違いしたらしい。
陸は慌てて笑顔を作った。
「大丈夫でした。一時的に意識がなくなったそうなんですけど、俺達が着いた頃には意識も戻って、千波さんとも少し話ができたようです」
「…………そう」
友美はホーッと肩で大きく息をつく。
「よかったわねぇ…。千波さんも安心してたでしょう?」
「はい」
陸は頷いて、靴を脱いだ。
そのまま自分の部屋に向かおうとすると、友美が少し訝るように陸の顔を見上げてきた。
「陸さん、何かあったん?」
「…………え?」
「なんや物凄い顔色悪いよ」
友美の言葉に、陸はドキリとする。
今はあまり触れてほしくなかっただけに、この時は女性の勘の鋭さに僅かな鬱陶しさを感じてしまった。
「何にもありませんよ」
「……そう? それやったらいいけど……」
「はい」
「あ、ご飯は?」
「今日は食欲がないので。すみませんが遠慮しときます」
これ以上の追及を避けるように、陸はそう言い置いてからサッと自室へと足を向けた。
最初のコメントを投稿しよう!