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部屋に戻った陸は、真っ先に机の中にしまい込んでいた煙草を取り出した。
椅子に座り、箱を開けて一本くわえ火を点ける。
そうしてふーっと長く煙を吐き出した。
「………………」
しばらくやめていた煙草。
千波に彼氏に間違われてからどうしても吸う気になれなかったのだが、今は煙草を吸うことぐらいでしか気持ちを落ち着けるすべを見つけられなかった。
『ちぃに、惚れてんのか?』
先程の良平の言葉が、脳裏に蘇る。
ずっと答から逃げ続けていた自分をまるで糾弾するように、その言葉は容赦なく陸の心臓を抉ってきた。
(………なんで……即答できなかったんだろう……)
真っ直ぐに射るように自分を見つめてくる良平に対して、どこか後ろ暗く。
自分は、逃げてしまった。
良平からも、自分の気持ちからも。
『惚れてんのかって質問に即答できん奴に、ちぃを渡す気はない』
きっとあの瞬間、陸の中の迷いや逡巡を良平は見抜いたのだ。
だからあれほど辛辣な言葉を陸に投げたのだ。
中途半端な気持ちなら、千波に近付くなと。
本気でないのなら、お前はライバルにすら値しないと。
千波を裏切った良平に偉そうに言われることに理不尽さは禁じえなかったが………そう思われても仕方がないと、陸は思った。
今はまだ、良平が千波の彼氏であることに間違いはない訳で。
………そして、自分は確かにあの時逃げてしまったのだから。
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