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「でも、やっぱり……急すぎて迷惑じゃ……」
「別に迷惑じゃないですよ」
「ホンマですか? 一家団欒の中に私なんか混ざっても、大丈夫ですか?」
「………………」
(………一家……団欒?)
陸はポカンと千波の顔に見入る。
ここにきて何やら風向きがおかしいことに気が付いた。
「………えっ……と」
二人きりで過ごそう、という意味で陸は誘ったのだが。
どうやら千波は、五十嵐家のクリスマスパーティーに誘ってもらったと勘違いしたらしい。
「あの…ですね、千波さん」
「でも……すっごい嬉しいです」
慌てて誤解を解こうとした陸だったが。
嬉しそうに頬を染める千波を見て、言葉を止めた。
「…………嬉しい?」
「はい。家族みんなでワイワイ賑やかな雰囲気って、すごく好きなんです。子供の頃、クリスマスとか誕生日とか家で祝うの、すごく楽しみで」
「………………」
「だから……嬉しいです。ありがとうございます」
さっきまでどこか刺々しかった千波の雰囲気が、一気に柔らかくなった。
本当に嬉しそうな千波を見て、陸は言いかけていた言葉をぐっと飲み込む。
饒舌だった陸が不意に黙り込んだので、千波はハッと口元を押さえた。
「……あ、すみません。私、一人で……」
「────いえ」
首を振り、陸はニコッと千波に笑いかけた。
その後でふっと息をつく。
(まあ……いいか)
結果的に、千波が合コンへ行くことは阻止できたようだし。
振り絞った勇気は、決して無駄ではなかっただろう。
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