2244人が本棚に入れています
本棚に追加
※※※※※※※
いつものように着物を着て髪を整えた千波は、最後に昨日陸から貰った彼岸花の簪をゆっくりと髪に挿した。
鏡に映った自分の姿を、角度を変えて何回も見直す。
(………やっぱりすごく映える、これ。ちょっと自分が綺麗に見えたりして)
今から陸と顔を合わせるのが何だかくすぐったくて、千波は自然に緩んでくる頬をグッと引き締めた。
「おはようございます」
台所の暖簾をくぐると、初枝と優子が一斉に千波の元に駆け寄ってきた。
「昨日は大変やったねぇ、千波ちゃん」
「おばあちゃん、大丈夫やってんて? さっき奥様から聞いたわ」
心配げに顔を曇らせる二人を見て、千波は極力明るい笑顔を作った。
「はい、大丈夫でした。ご心配をおかけしてすみませんでした」
「ええのよ、そんなん。でもほんまに何もなくてよかったわぁ」
「はい、ありがとうございます」
優しい言葉にじんわりしながら、千波はぺこりと深く頭を下げた。
(………陸様にもちゃんとお礼言わんとあかんなー。いっつも修羅場に巻き込んでしまってるし……)
突然の良平の登場に、突然の千波の発作。
きっと昨夜は訳がわからないまま、家路についたに違いない。
コーヒーの準備をしながら、昨日は陸に迷惑のかけ通しだったと改めて実感し、千波は申し訳なさで大きく肩を落とした。
最初のコメントを投稿しよう!