忘れ花 2

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陸の部屋の前に立った千波は、片手で軽く簪に触れた。 ずれていないかを確認してから、おもむろにノックをする。 「おはようございます、陸様。コーヒーをお持ちしました」 声をかけると、少しの間の後で「どうぞ」と返事が返ってきた。 ドアを開けた瞬間、千波はあれ、と眉をひそめた。 (煙草の……匂い?) 反射的に陸の机に目をやると、マルボロの赤い箱と結構な量の吸い殻が乗った灰皿があった。 「おはようございます、千波さん」 思わず足を止めてしまった千波に、陸は椅子ごと向き直って笑顔を見せた。 我に返り、千波は慌てて後ろ手でドアを閉めた。 「おはようございます」 声をかけながら陸の前にコーヒーを置く。 ありがとう、と答えて薄く微笑んだ陸の顔は、心なしか疲れて見えた。 「あ、あの…。昨日はどうもありがとうございました」 「…………え?」 「その…。病院まで送っていただいて」 「ああ……いえ」 陸は笑って首を横に振った。 その所作もどこか元気がないように感じて、千波は怪訝に思いながらも言葉を続けた。  
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